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黄泉比良坂で須佐之男命から「大国主神」となる使命を宣言された大穴牟遅。
八十神を追い払い、妻の選択を受け入れ、木俣神の誕生を経て、国造りが始まります。
そこには「武力ではなく秩序」「勝者ではなく支え手」という日本的統治観の原点が描かれています。

Ⅰ.黄泉比良坂での宣言──「大いなる国の主」となる命

須佐之男命の髪を椽に結び、戸を大石で塞いで脱出した大穴牟遅神は、
須勢理毘売を背負い、生大刀・生弓矢・天の沼琴を携えて逃走しました。
追撃に立ち上がった須佐之男命でしたが、髪を解く間に大穴牟遅は遠くへ。
こうして両者は、黄泉比良坂(よもつひらさか)で相対します 。

須佐之男命は、はるか遠くに大穴牟遅の姿を認め、次のように告げます。
「その生大刀と生弓矢で
 兄弟たちを坂の尾や川の瀬に追い伏せ、
 国を治めよ。
 そして大いなる国の主となり、
 宇都志国玉神となるがよい。
 我が娘・須勢理毘売を正妻として、
 宇迦の山の麓に堅固な宮を建て、
 高天原に届く椽をそびえ立てて住め」

ここに、大穴牟遅が「大国主神」となる使命が正式に宣言されました。
 髪を椽に結んだ機転、
 五百人で動かす大石の力、
 そして須勢理毘売を連れ出す勇気
試練を超えた行動のすべてが、この承認に結実します。

Ⅱ.八十神の退場と国造りの始動

大穴牟遅は、授けられた生大刀・生弓矢を用いて、
八十神たちを坂の尾に追い伏せ、川の瀬に追いやります。
ここで大切なのは、単なる殲滅ではなく「追い払い」であることです 。

すなわち、
 力を持って支配するのではなく、
 秩序を守るために必要な者を退ける
ここに日本的な統治観の原型を見ることができます。

こうして初めて「国作り」が始まりました。
大穴牟遅は、
 試練を乗り越えた勇気と知恵、
そして
 須佐之男命からの承認をもって、
大国主神としての歩みを始めます。

ここには「勝利者」ではなく「国造りの担い手」となる視点の転換があり、
古事記の語りはその転換点を鮮やかに描いています。

Ⅲ.妻の選択と新たな命──八上比売と木俣神

大国主神には、すでに先に契りを交わしていた八上比売がいました。
約束に従い彼女を伴ってきましたが、
正妻の座に据えられた須勢理毘売を前に、
八上比売は畏れて身を引きます。

彼女は自ら産んだ子を「木の俣」に挟み置き、
そのまま帰っていきました。
この子が「木俣神(きまたのかみ)」、別名「御井神(みゐのかみ)」です 。

ここには二重の象徴性があります。

  1. 木の俣(分岐点)は、新たな展開や選択を示す場。
      八上比売は去り、須勢理毘売が正妻となることで、
      大国主神の国造りが本格的に定まったことを意味します。
  2. 御井神の名が示すように、
      「井戸」や「水源」は生命の根源。
      去る者が残した子が、水の神として伝わるのは、
      古事記における「別れと再生」の美しい構造です。

Ⅳ.「椽」の象徴──屋根を支える横木としての使命

テキストには「椽(たるき)」という言葉が繰り返し出てきます。
椽とは屋根を支えるため、棟から軒に渡す太い横木。
象形文字としては「お腹の垂れた豕(いのこ)+木」で「重さを支える木」を意味します 。

須佐之男命が語った「高天原に届く鋭い椽を高く建てよ」という言葉は、
大国主神が築く宮殿の壮大さを表すと同時に、
国を支える責務の重さを象徴します。
髪を椽に結んで逃亡の機転を得た大穴牟遅が、
いまや「国を支える椽」として立つ――この対比が物語を一層深めます。

Ⅴ.現代への示唆──「大国主」とは何を意味するか

この場面が私たちに示すものは、単なる「国造りの始まり」ではありません。

• 武力ではなく統治力
  八十神を「追い払う」姿勢は、
  力を誇示するのではなく秩序を整える知恵を物語ります。
• 妻の選択の尊重
  八上比売の退場と木俣神の誕生は、
  女性の主体的判断が物語を進める要素として描かれています。
• 支える使命
  椽という言葉に込められた「重みを支える木」の象徴は、
  リーダーとは上に立つ者ではなく、重さを受け止める存在であることを教えます。

大国主神の国造りは、
 須佐之男命の試練を経て与えられた「承認」と、
 八上比売と須勢理毘売という二人の女性との関わり、
 そして木俣神の誕生によって完成していきます。
その全ては、連続性と選択、支える力をめぐる物語です。

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